歩いていると、犬と出くわすことがある。
人間に飼い慣らされている者、野に生きる者、おとなしい者、懸命に吠え立てる者、どことなく嬉しそうな者、なんだか疲れていそうな者。
さまざまな犬を見て俺は思うことがある。
「こいつらから見て、俺の姿はどのように映るのか?」
正直、俺には犬のことはよくわからない。
1匹1匹の姿形は勿論、犬種なんてのもよくわかっていない。
ということは、彼らから見ても人間1人1人の姿形を判別することはできていない場合があるのではないだろうか。
時々、俺と目が合うなり吠え散らかす者がいるが、彼らは犬の中でも人間に興味を持ち、その姿形を判別できる者なのだろう。見ず知らずの俺と目が合ったことで、その俺に何かを伝えようとしているのだろう。
「何者だ!」
「殺すぞ!」
「タス…ケテ……」
「ニンゲン、食ウ!」
しかし俺と目が合いながらも何を考えているのかよくわからない表情をしている者はどうか。おそらくは本当に何も考えていないのだ。
道端に小便を引っ掛ける犬を見て、糞をする犬を見て、交尾する犬を見て、我々人間が何とも思わないように、彼らの多くもまた、人間に対して何とも思っていないのではないか。
そうなると試してみたくなる。彼らの目の前でおもむろに放尿したり、野グソをしてみたり、野外セックスをキメてみたりしたい。彼らのことなど眼中に無いと言わんばかりに、大雑把に、それでいて丁寧に。
彼らはその時、本当に何の反応もしないのだろうか。何食わぬ顔でその場に佇んだり、歩き去ったりするのだろうか。
一体どうなるのだろう。
だがどうやらすでに、俺は犬に対して十分過ぎるほどの興味を持ってしまったらしい。
相手の反応が気になる現象を、興味と言わずして何と言うのだろう。
俺は引退する。後のことは任せてある。
もう、だ、め、だ……