りきすいの郷(さと)

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ドラゴンボール世界の謎

TVアニメ、ドラゴンボールZのアニメオリジナルエピソードには印象深いものが数多くある。

・セルとの闘いで命を落とした孫悟空が、あの世で大界王様に修行を付けてもらうべくあの世一武道会に出場するエピソード(ここで西の銀河の戦士パイクーハンが登場し悟空と互角の名勝負を繰り広げる。後に劇場版、各ゲーム作品に登場するなど人気度も高い)

孫悟空の父、バーダックフリーザ軍の裏切りに遭い仲間を全滅させられ、たった一人でフリーザに立ち向かうエピソードがあるが、バーダックというキャラクター自体が実はアニメオリジナルだ(バーダックの人気は特に高く、原作者鳥山明氏が原作マンガに逆輸入して彼を登場させたほどである)

1995年に原作の連載を終了して今なお、ドラゴンボールというコンテンツには衰退の兆しが見えることはなく、2018年に新作劇場アニメを公開したのも記憶に新しい。世界的にファンの多いドラゴンボールはまだまだ盛り上がりを見せることだろう。

と、ここで一つアニメオリジナルのエピソードについてお話をしたいと思います。ドラゴンボールZ第125話はそんなアニオリエピソードの中でも、ファンの間では伝説のエピソードと名高い神回としてよく話題に挙がります。

 

免許皆伝?悟空の新たなる試練

作中屈指の巨悪フリーザを倒し、ナメック星の爆発と共に散ったかに思われた悟空が地球に帰ってくる。だが悟空が帰ってくるより先に、復活したフリーザが復讐の為地球にやって来た。その時現れた謎の超サイヤ人の少年トランクス、あのフリーザを一瞬の内に消し飛ばしてしまうほどの少年が告げた、3年後に訪れる絶望的な未来。悟空はウイルス性の心臓病で命を落とし、突如現れた強力な2人の人造人間によって残された戦士たちもトランクスを除いて殺されてしまった。悲惨な未来を変えるためトランクスは母ブルマの作ったタイムマシンに乗り、悟空の心臓病を治す特効薬を持って未来の危機を伝えに来たのだ。3年後の人造人間による襲撃に備えるべく、戦士たちは各々修行に励みます。悟空も息子の悟飯、仲間のピッコロと共に壮絶な修行に臨むこととなった。

悟空たちが修行に明け暮れる日々、悟空の妻チチは自宅のあるパオズ山からふもとの町へ歩いて買い物に出掛けていたが、その帰りに巨大イノシシと遭遇し、何とか逃げ延びるものの折角買った食材を大量に落としてしまう。その直後にチチの横を隣山の夫婦がエアカーで通り過ぎて行き、ご主人が運転する車に乗せてもらう隣山の奥さんのことを羨ましく思うのだった。

その後、帰宅した悟空たちが泥だらけの修行着を脱ぎ散らかしそのまま風呂に入ろうとしたところでチチの怒りが限界を超えた。地球を守るためとは言え外で働きもせず家事もせず、息子の勉強を妨げてまで修行に明け暮れ、諸事情とは言え一旦死んだり別の惑星で修行をするために留守にすることも多く、今時運転免許さえ持っていない奔放な夫に彼女が怒るのも無理はない。書いていて思ったが現代において悟空のような夫がいれば、すぐにもSNSが炎上しそうである。チチがSNSを知らなくて良かった。

 

f:id:go-went-gone:20210226113603j:imageSNSが存在する世界線のチチの呟き。

 

 

「街の教習所さ行って免許を取るだ!それまで修行は絶対にさせねえだ!」

宇宙最強の超サイヤ人となった男もこうなってしまった妻には敵わないようで、大人しく教習所に通うこととなった。とばっちりで一緒に免許を取ることになってしまったピッコロと共に、悟空は無事に卒業できるのだろうか。急げ悟空ー!人造人間は待ってはくれんぞー!(CV:八奈見乗児)

とまあ、ここまでが本編の導入部分である。その後は凄いセンスのピッコロの私服姿や慣れない運転に戸惑う悟空の姿を見ることができるが、そちらは調べてもらえればいくらでも参考資料が出てくるので、こちらではあえて触れない。

 

現在、私は自動車教習所で教習指導員をしている。昔はただ単に笑えていたこの回も、今観るとゾッとする思いがする。

まず悟空、こいつは全然ダメだ。操作を全く覚えない上、アクセルとブレーキを踏み間違えたり、前進するつもりが勢い良くバックして柱に激突したりする。終いには「ハンドルを切るんじゃ!」と言われて手刀でハンドルを根元から切り落とす。恐怖でしかない。

そしてピッコロ、こいつも一見真面目に教習を受けているようでいて操作の上手くいかない悟空のことを見て「バカめ」と見下している。こういう姿勢が一番良くない。免許を取って道路で運転する時に他の交通を軽く見る典型だ。しかもこいつらは万一にでも死亡事故を起こしたところで大丈夫だ、ドラゴンボールで生き返れるという思考を持つため、非常に危険である。実際、教習中であるにも関わらず悟空に追い抜かれたピッコロは「悟空!俺と競うつもりか!」などと言って周りの教習生を無視して無謀な運転を始めた。その末路が爆発炎上の大事故なのだ。超人的な身体能力によって車の事故程度では傷一つ負わない彼らは指導員を連れて車から脱出してくれたが、それでももしその立場が私だったならと思うと笑えない。

しかし本来、教習所の車は補助ブレーキと言って助手席からでもブレーキをかけることができる仕様となっており、さらに指導員は助手席からでもハンドルの補助操作をする技術を持っているはずである。にも関わらず教習所内で教習車同士がぶつかる事故が発生している。まともな指導員ならばそのような事態となる前に補助を取るはずであるが、ドラゴンボール世界の指導員はなぜ補助を取らなかったのか?という疑問が残る。

 

理由はいくつか想像できる。

一つ目は、彼らの気迫に気圧された可能性だ。オフモードとはいえ幾度となく生死を巡る死闘を繰り広げ、時には実際に死んだこともある戦士たちの放つ気迫に触れれば、たかが教習指導員ごときが制することなどできないと本能で察するのは明らかである。私も教習生が強面ならあまり強く指導することができない弱さを持つので、そうなるのもわからないではない。

二つ目は、命の危険を感じた可能性だ。一つ目の理由と被るような気もするが、指導員が身の危機を感じそうな出来事を目の当たりにしたのは描写としては悟空がハンドルを切り落とす場面のみである。が、そもそも悟空は筋骨隆々の格闘家である。その上「アクセル」と言われたのを「汗臭い」と聞き間違えるなど天然ボケの兆候があり社会常識も通じそうにない様子である。何をしでかすかわからないという意味で世間的な印象ではこういう奴が一番危ないものである。何をきっかけに怒りのスイッチを押してしまうかわからないので、迂闊なことはできない。そしてピッコロは魔族である。この頃のピッコロは悟飯の存在もあってかなり打ち解けやすい雰囲気となったように見えるが、喋る時によく見るとキバが生えているのがわかる。身長なんて226cmもあり、肌の色や耳の形などどう見ても常人離れした風貌で、端的に言うと怪人である。怖くないわけがない。

三つ目は、補助を取ろうとしたが取れなかった可能性だ。現実の教習でも、補助ハンドルを取ろうとした時に教習生が緊張のためハンドルを強く握りすぎているために補助操作が上手く行かないこともある。もしも悟空やピッコロが他の教習生と同じく緊張状態となっていれば、ただの一般地球人に補助ハンドルを取ることなどできようはずもない。

しかしここまでの説はあまり有力ではない。彼らの担当指導員は別段怯えている様子などは無かったし、それにこれらは悟空とピッコロに対してのみの理由だ。これでは他の一般教習生たちの補助を取らなかった理由にはならない。まあ悟空はブレーキを踏むつもりで思いっきりアクセルを踏むようなやつなので目の前で急加速してきた車に対して反応が遅れてしまったという可能性も考えられないことはないが、指導員とはそれも承知の上で身構えているはずである。ということは、これらではない別の理由が介在することを示唆しているのではないだろうか。

ここで示す四つ目の理由が、視聴者への配慮の可能性だ。ドラゴンボールは幅広い世代に人気となったが、それでもメインターゲットはあくまで年端もいかない子供達である。もしも世の子供達が助手席からでもハンドル操作ができると知れば、それを試そうとしてしまうかもしれない。全国でそんなことが起きてしまえば交通事故が激増してしまうかもしれない。そうなれば全国の親御さんからクレームの嵐である。それを危惧した製作陣が意図して補助操作を描写しなかったのだ。メタ的な考えで無粋なようだが、個人的にはかなり有力である気がする。

 

ウダウダと戯言をのたまってきたが、真実は別にどうでもよいのだ。ただ願うのは、今後免許を取った悟空たちZ戦士たちが車の運転による悲惨な交通事故を起こさないことである。私は教習指導員であると同時に大アニメオタクなのである。例えフィクションの世界であっても、知っているキャラクターが交通事故を起こし、悲惨な人生を送ることになるところなど見たくはない。事故の相手に重度の後遺障害を負わせて膨大な賠償金を背負いどん底に突き落とされた暗い孫一家など見たくないだろう。悪質な事故や違反で免許を取り消され欠格期間付きとなったピッコロなど見たくないだろう。奴らはすぐにドラゴンボールや仙豆といった超常の力に頼りがちだが、車の運転はもっとリアルに自分や他人の命がかかっているものなんだ。彼らには、それだけは忘れないでいてほしいと願う。