りきすいの郷(さと)

テキスト系の記事とか、ネタ系の記事とか書きます。

思い出

昔、地元にあったパン屋はその近辺に通っていた中高生にそれはそれは愛されていて、青春の味として思い出語りの引き合いに出されることもしばしばあった。

一方、地元の同級生H君(仮名)は、素行の悪さ故多くの者から一目置かれ、その所業は青春の過ちとしてコアな関わりを持っていた一部の者達の間でひっそりと語り継がれていた。

 

H君の主な素行

コケコッコ神拳という我流の拳法を使いコンピュータ室の窓ガラスを割る(小学校高学年時)

・あらゆるゲームの無い裏技を吹聴する(小学生時)

・朝の読書タイム中にデルトラクエストの表紙でカモフラージュしたふたりエッチを読み、バレる(中学1年生時)

・事あるごと同級生等に強引に金を貸し付け、利息を請求。問題はすぐ発覚したため、親と共に被害を受けた生徒の家へ謝罪に行く(中学1年生時)

・バレンタインデーにチョコをもらいたかったが、部活中に顧問によってみんなのチョコを没収されてしまったため、先陣を切って顧問に抗議。無事顧問よりチョコを取り返したが、そもそもH君に渡すものを誰も用意していなかった。その後裏でめちゃくちゃ女子の悪口を言っていた(中学3年生時)

・筆者がH君に3000円貸し、後日その返済を迫ると俺は1000円しか借りてない!と逆ギレされ、マジで1000円しか返してもらえなかった(大学生時)

車校の教習料金をくすねる(大学生時)

 

しょうもないものからここには書けないようなものまで、H君の残念な素行は枚挙にいとまが無いが基本どれも似たり寄ったりのものである。つまり素行が悪かったと言っても、どのエピソードもイマイチ弱く、まあ別に彼自身悪党というわけではないので、愚者と書いてH君と読ませる程度のレベルではある。

ところで、H君の素行を振り返るとなんというか欲望に忠実なところがあり、思春期以降その傾向は顕著なのだが、特に金銭面においてはかなりだらしがないような印象を受ける。そんな彼はこれまでに結構色々な問題を起こしていたのだが、彼に限らずどこにでもこういった輩は存在している。皮肉なことに、いつの時代もそういった者がルールを生み出してきたのです。

 

冒頭のパン屋は中学時代に利用していた。私は少ない小遣いでたまに下校中こっそりと買い食いをするなどしていたが、その店のパンは美味しく、今にして思えば値段も手頃であった気がする。海老カツサンドとかめちゃくちゃ美味かった。特に100円で買える5枚入りのラスクはそのコスパの高さからかなり人気が高く、買えたらラッキーな代物であった。薄くスライスした食パンをサックリと揚げ、砂糖を贅沢にまぶしてある、いわゆる普通のラスクなのだが、軽く食べられる上に5枚入りで100円という値段のおかげで人と分けたりするなどして私のクラスでは非常に人気だった。しかし人気故に夕方になると売り切れていることが多く、そこに目を付けたH君はある日このような申し出をするのです。

 

朝、学校来る途中で買ってこようか?

 

H君の提案にみんなが賛成し、ラスクを欲する者はH君に金を支払うことになりました。最初は等価での支払いでしたが、いつからかH君は110円を払うよう要求し始めました。転売です。

買いに行ってもらってる負目もあるので、まあ10円くらいならとみんな払うのですが、次第にH君の行動はエスカレートし、まずは店にあるだけのラスクを買い占めるところから始まりました。H君が流通経路を絶ち市場を独占したことで、ラスクを買うためにはH君と交渉するしか無くなりました。そして値段も少しずつ上がっていき、最終的には元値の倍の200円くらいになっていたような気がするのですが、この辺りで事態に気付いた学校側の命によって学校へのラスクの持ち込みが禁止されることで、事態は終息へ向かうことになりました。

愚かなくせに頭が回るH君は、このような問題を頻繁に起こし、その度に学校で明示されるルールが増えました。知らなかったルールが浮き彫りになったり、ある時は新しいルールが誕生したりしたのです。

 

どんな時代もルールの抜け穴をかいくぐり、率先してその利益を独占する先導者がいます。先導者に続く者もいれば、その道を否定する者もいるかもしれません。そしてルールは変わり続け、さらなるルールの追加による制約も増えて行きます。制約を設けることで安心でき、安全に過ごすことができるのでしょう。しかし、今の制約だらけの世の中はどこか退屈で、窮屈に感じるような気もします。そしてどれだけ縛ろうとも、いつか必ず先導者は現れるのです。

利益を独占する行いを肯定するわけではありませんが、飽くなき欲望に満ちたH君はどこか命のエネルギーに満ち溢れているようでいて、それはそれで羨ましくもあったのです。

 

H君とは今現在ほとんど付き合いがありませんが、今もどこかで元気にルールを作り出しているのかもしれません。