りきすいの郷(さと)

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いつか、恩返しを…

私には、尊敬している上司がいる。

とてもお世話になっている上司だ。

以前同じ係で仕事をしており、彼が春に栄転を果たしてから部署こそ変わりはしたが、同じ社内で何かと気にかけてくれている。

 

 

 

こう言ってはなんだが、彼は仕事ができるタイプではない。決して。

しかし、人間力とでも言うのだろうか、困っている人がいると見過ごすことができないという性分を持っており、私は幾度も助けてもらった。

そんな彼に、心から感謝をしている。

 

 

 

だが、彼でも腹が立つことがあるのだろう。

時折私に愚痴をこぼすのだが、

 

「もう17回目か、妄想であいつを殺したのは

 

という話をする。

 

彼のこういう人間らしいところが、私は大好きだ。

ちなみに、私は1日に3回くらい「殺す」と言われている。

かれこれ3年以上の付き合いになるので、単純計算で3000回以上は殺されていることになるが、それはまた別の機会に。

 

 

 

 

 

ある日、私が一人残って遅くまで仕事をしていた時のことだ。

とっくに退社したはずの彼が一人戻ってきて、

 

「なんだ、まだ仕事してるのか。早く帰れよ」

 

とだけ言ってトイレへと向かった。

 

小便など家で済ませば良かろうに、なんて私は考えていた。

少ししてトイレから出てきた彼の手には、新しいトイレットペーパーが握られていた。

 

「え、どしたんすかそれ?横領?」

 

「いや、違うんだ」

 

「何が違うんすか」

 

 

 

 

 

昨日、家のを切らしたんだ

 

違わねえじゃねえか!

横領じゃねえか!

 

…という言葉を飲み込み、私は爆笑していた。

 

「誰にも言うなよ」

 

そう言い残して彼は去っていった。

 

 

 

私はこんな人間味あふれる上司のことが大好きだ。

すでに6人くらいには言いふらしたが、とても尊敬している。

この会社で彼以上にお世話になった上司は他にいないだろう。

そして、これからもお世話になるのだろう。

いつか、恩返しを、しなくっちゃな…。

 

 

 

 

 

そろそろお年玉の季節だな。