りきすいの郷(さと)

テキスト系の記事とか、ネタ系の記事とか書きます。

部長りきすいと愉快な部員たち

人は失敗から学ぶ生き物だ。

だから俺は特定の個人や組織の悪口をブログに書き散らすようなことを絶対にしない。それは俺が失敗から学んだからだ。

 

「ブログに部活の悪口を書くなんて部長として最低」

「お前があそこまで追い詰めなければあの子が部活を辞めることはなかったのに!」

「ポケットに手を突っ込んで廊下を歩くような部長に誰も付いてくるわけがない」

いつも眠そうな顔で登校しやがって

 

これらは、俺が高校2年生の3学期、当時部長を務めていた吹奏楽部を他の部員により追い出される際に言われたことを一部抜粋したものだ。最後のやつは別に部長とか関係無くない?

 

 

 

当時、俺は引退する先輩方から部長に任命されるとその重責を担うために心を冷に徹して、一切の甘えを許さぬ指導を自らと他の部員に課していた。

とは言え、俺の学年の部員は半数以上が高校から始めた者で構成されていたので、別段上手なわけではなかったし、それ自体に文句は無かった。

俺が許せなかったのは、練習、いや、演奏そのものに対する奴らの姿勢だった。

下手なら練習をすれば良いだけだし、練習の仕方だって各々が試行錯誤すればいくらでも工夫のしようがあるはずだ。そうして皆で取り組むうちに個々の演奏が重なり素晴らしい合奏となる。だのに奴らときたら「どうせ自分たちは初心者だし下手だから」とでも言いたげな雰囲気を醸し出して俺のアドバイスを煙たがる態度を露骨に見せるのだ。さすがに個人練中とは言えメトロノームを使っているのならそのリズムに合わせて欲しいし、休日の部活が終わって午後からの自主練中に部室で漫画を読み漁るのはやめて欲しい。

 

そんな折、顧問から直々に部長としての初ミッションを言い渡されることになる。

『部費を18ヶ月分滞納している部員を説得して支払いをさせろ』

さすがに意味がわからなかった。だって部費は月額1000円なのだから。

よくよく確認してみると部費を滞納している部員は同じ学年の女子とのことだった。おかしい。なぜなら彼女は1年生の時から学校に許可を取らずコンビニでバイトをしていたからだ。

しかも彼女は、学業の合間で細々と小遣いを稼ぐ程度ならばともかく、バイトのために部活を無断で休み、始業には平気で遅刻を繰り返し、いつしか無断欠席も繰り返すようになった引き換えに月収10万円近く稼いでいるようなヘビーアルバイターだった。

つまり月に1000円を支払うことなど造作もなく、なんなら一気に清算してしまって債務とはオサラバしてしまえるほどの財力を持っていたわけだ。俺の小遣いは月3500円だった。

さすがにそれはあまりにも無責任ではないかと感じ、その足ですぐさま部費の滞納分を催促しに行った。彼女は同じクラスだったし、ちょうど昼休みということもあってすぐに捕まえることができた。

ちょうど同じ部活のメンバーでご飯を食べ終わり談笑している彼女を捕まえた俺は叫んだ。

「おいてめえ!部費払えコルァアアア!!!」

人一倍お金に対して誠実な俺は、彼女の愚かで浅ましい行動を絶対に許すつもりはなかった。ここまで滞納した分はなんとしても徴収してやると、固く心に決めていた。言い忘れていたが彼女は友だちで仲自体は良好だったので、彼女が道を外れることを正さねばという使命感にも駆られていた。なので、必死だった。

考えてもみれば、そもそも彼女はバイトを優先して月に2度程度しか部活に顔を出さないではないか。そのバイトだって学校に無断でしているのだし、いっそこの場でどちらかを選んだら良いのではないか。いや、選ぶべきなんだ!

「どっちか選べやあああああ!!!!!」

だが、いずれにしてもここまで滞納してきた18000円は支払ってもらう。絶対にだ。

そんなこんなで一方的な怒号を浴びせていると、彼女が言った。

「わかった。じゃあ部活を辞める。部費は卒業する時にまとめて払ってやるからそれで良いだろ!」

良いわけねえだろ。こいつ正気か?

今すぐ払えって言っているのになぜ堂々と遅延宣言ができるのか。割と本気で意味がわからなかった。

俺が呆気に取られている隙に彼女は逃亡し、そのまま昼休憩が終わってしまった。

 

翌日、彼女が退部届を提出したことを顧問から聞かされた。部費は当然払っていないようだった。

まあ良い。部員でなくなったのなら俺に部費を徴収する義務は無い。あとは顧問に任せるとしよう。しかし、大きな問題はすぐそこまで迫っているのだった。

 

俺が部員を追い詰めて退部させたということで、同じ学年の他の部員から非難を受けるようになった。

おかしいな。奴ら昼休憩の一部始終を見て聞いていたはずでは?

どうやら奴らの目には一方的に俺が悪者として映っていたらしい。おいおい、この部にいる奴らはみんな正気じゃねえのかよ。

この日を境に、もともと孤立気味であった俺の部内での地位は揺るぎないものとなる。

集団心理というのは恐ろしいもので、俺がどれだけ正しさを説いてもそれが奴らに響くことは無く、むしろ俺こそが諸悪の根源であるとでも言わんとする雰囲気を惜しげも無く放たれる完全なる悪循環が生まれていた。

孤独な部内で正しさを見失ってしまった俺は、当時運営していたブログで狂ったように部の悪口をしたためた記事を量産するようになった。

部活にはOBの指導者が常駐しており、部の方針を決めたりなど、実質的に実権を握っていたのがこの指導者なのだが、一度その指導者と問答をしたことがある。

りきすい「この部にはコンクールで金賞を取るというような明確な目標が無いように思います。明確な目標を定めなければできるものもできないのではないでしょうか」

指導者「目標ならありますよ」

り「あるんですか?一体何です?」

指「定期演奏会を開くことです

り(それは目標じゃなくてただの行事では?????)

この指導者の存在が俺の文筆の速度をさらに加速させることとなる。

そうしてブログをどんどん充実させていると、ついにブログの存在を部員たちに知られることになってしまった。GREEのプロフィール欄にURLを掲載していたからだ。

 

わざわざ記事文を印刷して私に突きつけ、放課後会議と称して同学年である8人の女子部員が俺を取り囲んだ。

束の間のハーレムを楽しむ暇もなく、俺は非難の言葉と悪意を沢山浴びた。それはもう沢山浴びた。

そんなこんなで俺を退部させる雰囲気が漂っていた魔女裁判の中、せめて今後の人生に活かしたいと

「部長として俺のダメだったところを教えてほしい」

と質問したところで冒頭の言葉たちが登場する。やっぱり最後のやつは関係無いよね?元々そういう造りの顔なんだからほっとけや。

 

 

 

そうしてケジメとしてブログの記事を全て削除し、晴れて吹奏楽部を追い出された俺は肩の荷を降ろして気ままに生活していた。

そんな折、例の部費滞納女から連絡が来た。

なんでも、バイトに勤しむあまり学校を休み過ぎた結果、進級するための単位が足りないとのことだった。

その翌日に学校に来たので、下校の際に話すことにした。元々仲は良かったので、俺が退部させたことなど意に介さぬ様子だった。何せ今度は進級が危ういのだから。聞くと部費はまだ滞納中らしい。

休み過ぎて単位は足りないが、春休みに補習を受ければなんとか進級させてもらえるらしい。その上で面倒なので自主退学しようと思っているとのことだった。こいつ正気か?

滞納した部費も支払わず退学するだなんて、そんな経験は必ず今後の人生において自分の精神に暗い影を落とすことになるだろう。何より、公立高校とは言え決して安くは無い学費を支払ってくれた親御さんにどう説明するんだ。悪いことは言わないから考え直してくれよ。

俺は必死に説得していた。ここまで学び舎を共にしてきたのだから中途半端なところで辞めて欲しくないというのが本音だった。要は寂しかったのだ。

「…そうやって本気で説教してくれるの、りきすいだけだよ。ありがとね。考え直してみる」

俺の本気の説得が彼女に届いたのだろう。

上っ面だけではない俺の真心が、彼女の心を動かしたのだ。そうして人と人が分かり合える世界を、俺たちは築いていくことができるんだ。だから、本気で人と向き合って生きているんだ…!

 

 

 

彼女は普通に退学したし、部費も普通に踏み倒した。

今頃、元気にやってんのかな…。