その日、僕はバイクで2つ隣の市まで来ていた。
当時無職だった僕は、特に仕事を探したりなどせず毎日ふらふらと遊んでいたのだが、移動手段はパンクした自転車のみという悲惨なものだった。
親父が乗らなくなった125ccのバイクを譲ってくれるというので、自動車学校に行って免許を取った。AT・小型限定の自動二輪免許。中型には乗れない。
なぜそんな使えない免許を取ったのかと友人には散々言われたが、移動手段がものすごく便利になった僕は超ルンルンだった。
早速、バイクに乗る練習でもしようと平日の昼間から行く当てもなく出かけた。
出かけたはいいが、なんか思ってたよりスピードが出ない。
アクセル全開にしても50km/hがやっと。
坂なんかのぼろうものならおばあちゃんの乗った原付にぶっちぎられる始末。
バイクなんてこんなものなのかななんて思ってたけど、後日調べたら普通に整備不良だった。
そんなクソポンコツバイク(全然関係ないけどデュラハン坂崎って呼んでる)に乗ってふらふらすること2時間。
気が付くと2つ隣の市までやってきた僕は、ローソンを見つけたので坂崎を休ませてやるついでに休憩がてら何か食べようと思った。
僕はローソンのホットスナックが大好きだ。
ゲンコツメンチとか、やみつき鶏とか、すっごく好き。別にローソンじゃなくても好き。
中でも、Lチキとかいうパンに挟んでも美味しい便利な奴にはかなりお世話になっている。
この日も、Lチキのお世話になろうと思ったのだけれど、少し様子が違った。
新商品が出てた。
Lチキビッツという、一口サイズのLチキ。
僕の地元のローソンでは売ってない商品だったので、すごく魅力的に見えた。
迷うことはない。あれを食おう。
そう思って、適当なジュースとさすがにビッツだけでは満足できない気がしてその辺に置いてあったチキン南蛮を持ってレジに行った。
「Lチキビッツ、ください」
すぐに財布の中からお金を用意する。
たくさん入っていた小銭を消化しようと思ったので、少し手こずったが支払いをスムーズにする準備をしていた。
そんな準備をするべく少し目を離した間に、さっきレジをしてくれた店員さんがLチキを1つ2つと袋に包んでいた。Lチキビッツではない。
もしかしたら、先に他のお客さんがレジを通していたのかもしれない。だとしたら悪いことをしたな。なんて思っていた。
結果的に、僕の目の前にLチキが3つ出てきた。
すごい聞き間違いをされた。
あのすぐ油でテッカテカになる紙の袋に一つずつ丁寧に包まれてるので今更言える空気でもない。
別にそんなに欲しくもなかったチキン南蛮とか買うんじゃなかった。
後日、地元でもLチキビッツが発売されていたので買ってみた。
そんなにおいしくなかった。